学校保健・エコヘルス財団理事長 挨拶

日本財団の助成のもとで実施してきました東京学芸大学カンボジア学校保健プロジェクト(School Health Project for all Cambodian Children: SHCC))は、2019年の準備期間に始まり、2025年12月まで実に足掛け7年間にわたり、実施してきました。この12月に東京学芸大学のプロジェクトであった第1フェーズを終了し、第2フェーズは2026年1月より一般財団法人学校保健・エコヘルス財団(School Health Training and Ecohealth Promotion Foundation:STEP)のプロジェクトとして、引き続きカンボジアの教員養成大学における学校保健の教育基盤の整備に取り組んでいきます。

さて、私は、カンボジアの社会をよりよくしていくには、トップダウンでもなく、ボトムアップでもない。ミドルアップ・ミドルダウンだと考えています。学校保健の教育に関していえば、教員養成大学が中核となって、政府に学校保健教育や教員養成について提案し、同時に、地方の学校に教員を送ることで、地方の子どもや人々の健康を向上させていくことができる、と考えています。このミドル層が充実することが、カンボジアの国、社会、人々が健康になるうえでカギを握ると考えているのです。だから、SHCCにとって、PTECとBTECのマネジメントチーム、SHCCの教官メンバーが重要なパートナーなのです。

このような考えのもとで、本プロジェクトは、この6年間日本財団の助成を受けて、3年かけて300ページ以上の小学校課程の包括的な学校保健の教科書を制作しました。教官用に教科書のガイドブックも用意しました。2022年にはPTECとBTECの小学校課程に2単位の学校保健の授業を導入し、現在の4期生まで合計1200人の学生が保健を学びました。3期生までの900人は保健を教えることができる教師としてカンボジア全国で活躍しています。我々の調査では、現在、約30%の卒業生が学校で保健を教えている状態ですが、カンボジアの子どもたちの健康向上のために、教育省、TECと協力してこの数字を上げていきたいと考えています。

中学校課程一般専攻用にも学校保健のエッセンスをまとめた教科書も作成しました。2025年からは中学校課程の学生も1単位教養科目として学校保健の授業を導入し、PTECとBTECの3期生と4期生合計304人が保健を学びました。

学校保健を教える教官のキャパシティビルディングのために、2020年3月から2025年11月までに、25回、日数にすると60日、時間にすると480時間にもなる学校保健研修を開催し、23人のPTECとBTECの学校保健教官が参加しました。中には25回を皆勤した教官も複数います。本邦研修も4回行い23人全員が日本での研修を受けました。

KIZUNA、ソーシャルコンパスとともに、中学生向けの保健の紙芝居も作成しました。中学校の保健室マニュアルの作成にもSHCCプロジェクトチームが貢献しています。さらに、保健に限らず教育者としての資質向上を図るために、良い教員のためのソーシャル・エモーショナル・コンピテンシー・カードゲームも制作しています。

2026年からは第二フェーズが始まり、新しい組織としてNGO「STEP」が日本財団の助成を受けて、SHCCの事業を引き続き行っていきます。第二フェーズの最終的なゴールはPTECとBTECにおける中学校教員養成課程学校保健コースの設立です。国の未来を創る子どもたちが健康であるためには、包括的な学校保健教育ができる教師の育成が必須だからです。また、新しく開設されるTECへの学校保健導入の支援、附属学校等における学校保健の教育実習の充実など、新しい事業にも取り組んでいきます。これまで通り教官に対しての学校保健研修も実施していきます。この目標達成は、カンボジアの教育省とTECのご協力なくしては実現できません。同時に、日本財団をはじめとした財政面等の支援なくしては実現できません。

STEPとしてはASEAN諸国を中心とし、新たな学校保健支援事業にも取り組んでいきたいと考えております。このHPをご覧くださっている皆様のご理解とご協力、ご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

学校保健・エコヘルス財団理事長
朝倉 隆司